著者
ELEKS サイバーセキュリティオフィス責任者 プルジュニコフ・オレクサンドル
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ELEKS Japan マーケティング責任者 ギルナ・オリシャ
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複雑化するグローバルコンプライアンスとテクノロジーの重要性
PwCの「Global Compliance Survey 2025」*によれば、77%の企業が、規制要件の増加によって、すでに業務運営や生産性、戦略的成長に悪影響が及んでいると回答しています。企業の間では、手作業を中心とした従来型のコンプライアンス運用が限界に近づいているという認識が広がっています。コンプライアンス要件は急速に拡大すると同時に、相互の関連性を強めており、その対応はますます複雑化しています。
こうした状況を受け、テクノロジーはコンプライアンス機能の中核へと位置づけられるようになっています。PwCは、82%の企業がコンプライアンステクノロジーへの投資を拡大する計画であると報告しており、主な分野として、データ保護の自動化、リスク評価ツール、リアルタイムモニタリング、デジタル社員研修などが挙げられています。一方で、回答者の63%がデータの断片化を効果的な意思決定を妨げる大きな要因として指摘しており、今後のコンプライアンスの成否は、統合された情報基盤を構築し、信頼できる単一の情報源を確立できるかどうかにかかっていると言えるでしょう。PwCは、企業全体を横断し、テクノロジーによって高度に連携された運用モデルである「コネクテッド・コンプライアンス」が、今後数年間の戦略的計画の中心になると結論づけています。
また、Thomson Reuters Instituteが発表した「10 Global Compliance Concerns for 2024」**では、コンプライアンスを取り巻く環境が大きな転換点を迎えていることが示されています。地政学的リスクやサイバー脅威、新たな金融犯罪の手法が、急速な技術革新と結びつくことで、企業の対応領域はさらに広がっています。人工知能や生成AIは、取引の監視や不正検知、規制違反のリアルタイムな把握といった分野において、リスクおよびコンプライアンス部門の標準的なツールとなることが見込まれています。
その一方で、企業にはESGガバナンス、制裁対応、サイバーレジリエンス、企業所有構造の透明性といった分野において、より高い水準での対応が求められるようになるでしょう。
日本におけるコンプライアンスの動向 最近の発展と主要な課題
Deloitte Japan Fraud Survey 2024–2026***は、700社以上の回答を分析し、日本における不正行為、コンプライアンス、ガバナンスの最新動向に関する貴重な知見を提供している 。
- 本調査の主な発見として、日本企業における不正行為の発生率は2022年と比べて増加していることが挙げられる
- 海外や第三者を含むリスクに対する理解、評価、対応が不十分である。必要な法律や規制を包括的に確認できている企業はわずか10%に過ぎない
- 企業とその監督委員会におけるコンプライアンスに関して、ガバナンス関連の注目は50%以上が以下に集中している
- 法律および規制の遵守
- 不正行為やスキャンダルの防止と対応
- グループ全体のガバナンス(規則、構造、監督)
- 経営陣の監督やモニタリングに重点を置いているのはわずか18%であり、リスク管理、危機対応、リーダーシップに期待を寄せる企業は1~4%にとどまる
- 内部通報を受けた企業の割合は2022年と比べて6%増加し、41%に達している
PwC Japanは関連調査として「2025年におけるコンプライアンスとガバナンスの最新動向」を発表しており、先述のPwC Global Compliance Survey 2025****を基に、日本企業に特化して分析している 。
- 本報告書によれば、効果的なコンプライアンス管理を妨げる主な課題は以下である
- 責任の分散と統一ガバナンスフレームワークの欠如 - 責任が過度に分散していることで迅速な行動が妨げられ、重要な意思決定が遅延し、システム上の問題を見落とすリスクが増大し、法令や規制違反への迅速な対応能力が低下する
- 経営層の関与不足 - 経営陣がコンプライアンスの重要性を積極的に認識・支援しない場合、コンプライアンス活動は形式的な作業やチェックボックスの作業にとどまり、実効的なリスク低減策とはならない
- 組織文化の軽視 - 強固な組織文化の構築は持続可能な企業運営の基盤であるにもかかわらず、形式的な管理に偏り、共有された価値観や責任感の醸成が軽視されることが多い
- 他社とのベンチマークへの過度な依存 - 他社と比較して高いコンプライアンス成熟度があると認識しても、リスクが完全になくなるわけではない。相対的な比較による過信は内部の弱点を見えにくくし、慢心を招く
- 監視・保証機能の弱さや形式化 - 監視、自主評価、内部監査機能がリソース不足、形式的すぎる、独立性や厳格さに欠ける場合、コンプライアンスフレームワークの効果は大幅に低下する
- リソース制約 - 多くの場合、コンプライアンスの課題は人員やリソース不足に起因しており、効果的な施策を設計、実施、維持する能力を制限している
LRNによる日本の倫理・コンプライアンス(E&C)プログラム*****に関する別の調査では、今後数年間において日本のE&Cリーダーが優先すべき取り組みとして、プログラムの実効性向上と従業員体験の改善、方針や手続きの使いやすさ向上(37%)、オンライン研修コースおよびプラットフォームの改善(34%)、行動規範および各種ポリシーを検索可能なWebベース形式へ移行(30%)が示されている 。
ELEKSが日本市場でのコンプライアンス関連業務を通じて得た経験に基づき、以下の主要な観察事項がある 。
- 有資格コンプライアンス専門家の不足 - 多くの日本の専門家にはコンプライアンス分野におけるグローバルベストプラクティスの知識が不足している。さらに、多くの専門家が戦略的視点を欠き、コンプライアンス活動がどのように事業価値を創出するかを明確に理解していない。この専門家の全体的な不足は、求職市場における人材の質と多様性を制限している 。
- 責任の分散による業務の重複 - コンプライアンス責任の分散により、異なる分野で作業が重複することが多い。例えば、研修は複数の分野で同時に対応できる領域である。統一された研修プログラムと共通ツール、標準化されたコンテンツ提供・知識共有のアプローチを通じて取り組みを統合することで、効率が大幅に向上する 。
- 迅速かつ効果的な変更実施の困難 - 多くの日本企業では、全社的な変更をタイムリーかつ効率的に実施することが難しい。これは長年のガバナンス慣行、複雑な承認プロセス、意思決定や実行を遅らせる文化的要因に起因している 。
- 規制環境の簡素化の認識 - 他の報告書とは対照的に、規制の複雑性が無限に増大し続けるという見方には部分的に異議を唱える。現状、規制要件はグローバル規模で拡大していることを認めつつも、コンプライアンス領域における複雑性の成長は徐々に安定し始める兆候も観察される。この見解は結論部分で詳述されている 。
日本におけるコンプライアンスの方向性と結論
全体的な見解
デロイトの分析によると、日本企業にとってコンプライアンスは依然として大きな課題であり続けています。その背景には、過去と比較して不正や不祥事の発生件数が増加していることに加え、企業のグローバル展開が進み、海外の法令・規制への対応が求められている点があります。その結果、コンプライアンス関連業務の量は増加している一方で、業務の効率性には依然として改善の余地があります。
内部通報制度の有効性が向上していることは、国際的なコンプライアンスのベストプラクティスがより広く導入されつつあることを示唆していますが、これらの取り組みは一度導入して終わりではなく、継続的な改善と運用経験の蓄積によって、初めて実効性が高まるものです。
PwCの専門家は、現代のコンプライアンスは単なる法令遵守にとどまらず、社会的責任の遂行や持続可能な事業運営、企業としての信頼性構築といった戦略的側面を含むものであると指摘しています。さらに、グローバル化に伴う法制度・規制の複雑化は、企業に対して新たな視点と対応戦略を求めています。
規制の複雑性について、ELEKSの専門家は、中長期的にはコンプライアンス全体の負担が緩和される可能性があると見ています。その転換点は2030年前後になる可能性があり、その要因の一つとして、グローバル化を前提とした潮流から、一定の分断や内向き志向を伴うパラダイムへの移行が挙げられます。国家間の競争が激化する中で、規制の複雑さそのものが国の競争力に影響を与える要素となりつつあり、各国政府は経済成長と規制の適切なバランスに、より注意を払うようになっています。
2024年から2025年にかけては、その兆しも見られます。例えば、米国では人工知能や暗号資産分野における一部規制緩和が進められ、欧州連合ではCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の適用範囲が限定されました。これらの動きは、新興技術分野を中心に、過度な規制が経済成長を阻害しないよう、規制の簡素化を志向する流れが生まれつつあることを示しています。
企業ガバナンス
デロイトの調査結果からは、コンプライアンスを企業ガバナンスに統合する点において、依然として大きな改善余地があることが明らかになっています。現状では、取締役会がコンプライアンスを、不正防止や法令遵守を担う特定部門の責任として捉える傾向が強く、経営陣の意思決定や業績を主体的に監督することよりも、形式的なプロセスや統制に重点が置かれがちです。
その結果、リスクマネジメント、危機対応、リーダーシップといった、将来の課題を予測し、不確実性に対応しながら長期的な戦略を形成するための重要なガバナンス領域が、十分に重視されていない状況が見受けられます。
PwCも、ガバナンスと一体化したコンプライアンスの視点が、国際的な規制環境に迅速かつ効果的に対応するために不可欠であると指摘しています。コンプライアンスは、単なる規制対応から、事業戦略の中核的要素へと進化しつつあり、もはや罰則回避のみを目的とする活動ではありません。
ELEKSの専門家は、企業ガバナンスの柔軟性が、イノベーション導入やコンプライアンス関連プロセスの効率化を迅速に進める上で極めて重要であると強調しています。また、高い潜在能力を持つ人材を見極め、権限を委譲できるかどうかは、経営判断のスピードと実効性に密接に関係しています。
コンプライアンスの効率性
コンプライアンスが複雑化し、戦略的な側面を持つようになるにつれ、従来の手法を超えた新たなアプローチが求められています。PwCが指摘するように、効率性と実効性の両面から、従来の枠組みでは対応しきれない領域が今後さらに顕在化する可能性があります。
そのため、コンプライアンステクノロジーや外部の専門知見を活用し、変化する法規制環境に迅速に対応できる体制を強化することが急務となっています。
人材マネジメント
ELEKSの専門家は、組織内での人工知能の活用が進むことで、優れた人材の育成・確保・定着の重要性が一層高まると指摘しています。先を見据え、効率的で、ガバナンスに組み込まれたコンプライアンス体制を構築するためには、状況を正確に理解し、適切な判断を下せる高度な専門人材が不可欠です。
AIの支援により、こうした専門家は生産性を大幅に高め、より少ないリソースで広範な業務領域をカバーすることが可能になります。
その結果として、優秀な人材を発掘し、育成し、組織に定着させるための人材マネジメントとリテンションの仕組みを強化することが、コンプライアンスおよびガバナンス機能の長期的な有効性を確保する上で不可欠となります。
知識共有と使いやすさ
LRNの調査では、コンプライアンス関連の文書や実務を簡素化し、組織全体の従業員が理解しやすく、実践しやすい形にする必要性が強調されています。また、研修プログラムについても、幅広くアクセス可能で、使いやすく、実際に行動変容につながる内容であることが重要とされています。
さらに、コンプライアンス文書へのアクセスのしやすさや、効率的に内容を検索・参照できることも重要であり、これらの資料はWebベースの形式で提供されることが望ましいとされています。
ELEKSからの提言
日本市場における調査およびコンサルティングの経験を踏まえ、コンプライアンス体制の強化と高度化を目指す企業に向けて、以下の提言を行います。
本提言は、大きく二つの観点から構成されています。
第一は、経営層・ガバナンスレベルで講じるべき施策です。
第二は、コンプライアンス業務の運用効率を高めるための実務的な取り組みです。
ガバナンスレベルにおける提言
- 効果的なチェンジマネジメント体制の構築
迅速な意思決定と、改善施策や規制変更を速やかに実行できるガバナンスモデルを整備することが重要です。 - コンプライアンスを組織文化に組み込む
全社的に「コンプライアンスを最優先する」意識を醸成することで、業務の実行品質が向上し、不正行為の予防にもつながります。 - コンプライアンスと事業目標の整合
コンプライアンス施策を単なる義務として捉えるのではなく、戦略的な事業目標の達成を支援する要素として活用する機会を明確にします。 - 取締役会および経営層におけるコンプライアンス知見の強化
取締役会および経営層には、コンプライアンスに関する深い理解を持つ人材を含めることが不可欠です。責任は複数の階層に適切に分散させつつ、全体を俯瞰する中枢的な統制とのバランスを取ることで、効率性と実効性を両立させます。 - 統合マネジメントシステム(IMS)の導入
環境管理、情報セキュリティ、品質管理、不正防止などの領域を横断する統合マネジメントシステムを導入し、コンプライアンス目標と事業目標の双方に対する進捗を可視化します。 - 人材の選抜・定着・昇進に関する体系的な仕組みの導入
高い能力と実績を持つ人材を特定し、育成・定着・登用することに注力します。あわせて、組織に実質的な影響を与えられる権限とリソースを付与することが重要です。
運用効率向上に向けた提言
- 重要なコンプライアンス職務への最適人材の配置
高度な専門性と経験を有する人材を中核ポジションに配置し、主体的かつ的確な判断ができる環境を整えます。 - 人工知能を活用した生産性の最大化
AIを活用したツールの導入により、分析力や意思決定の質を高め、コンプライアンス専門人材の生産性向上を図ります。 - 業務プロセスの監査と最適化
コンプライアンス関連プロセスを定期的に見直し、非効率や曖昧さを排除し、自動化に適した状態へと整備します。 - コンプライアンス自動化ソリューションの導入
手作業を削減し、一貫性と拡張性を高めるために、自動化ツールを積極的に活用します。
KPIの定義と継続的なモニタリング
実効性や成熟度を測定できるKPIを設定し、継続的なモニタリングを通じて実質的な改善を促進します。
- コンプライアンスポリシーのアクセス性と使いやすさの確保
ポリシーを読みやすく、検索しやすい形で提供し、日常業務における判断を支援するAIアシスタントの活用も検討します。 - 実践的で利用しやすい研修プログラムの開発
全階層の従業員を対象に、要点を押さえた分かりやすい研修コンテンツを整備します。 - フィードバックと継続的改善の仕組み構築
従業員からの意見を体系的に収集し、コンプライアンス施策の改善に継続的に反映させる仕組みを導入します。
ELEKSの対応 コンプライアンスをシンプルにするテクノロジー eCAP
ELEKSは過去数年にわたり、日本の大企業グループから中堅企業、製造業、輸出関連企業に至るまで、幅広い組織におけるコンプライアンス課題を調査してきました。多くの企業に共通していたのは、経営層がコンプライアンスの重要性を十分に認識している一方で、データの分断、手作業中心の業務フロー、統合的な可視性の欠如が、不要な複雑性とリスクを生み出しているという点です。
まさにこうした課題を解決するために「eCAP」を開発しました。eCAPは、組織の次のような取り組みを支援します。
- コンプライアンスデータの一元管理
- 新規の規制や基準の導入スピードアップ
- リスクおよびコントロール・モニタリングの自動化
- 内部監査の効率改善
- 国際基準に準拠した正式な認証取得プロセスの合理化
- 意思決定者へのリアルタイムな監視機能の提供
私たちの目標は、コンプライアンス運用を簡素化し、管理負担を軽減することです。そして、すべてのプロセスが一貫性を保ち、常に最新の状態で文書化されているという確信を、経営層の皆様に持っていただけるよう支援することにあります。
また、ELEKSはグローバルに展開するコンサルティングおよびマネージドサービスを通じて、ガバナンス体制の強化や最新規制への対応、さらにはコンプライアンス・リスク管理の効率化を強力にサポートいたします。
コンプライアンスに関する課題のご相談や、eCAPの詳細についてお知りになりたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。専門チームが皆様を全力でバックアップいたします。